線香といえば、京都や奈良をイメージしますが、自由貿易で栄えた堺に朝鮮半島を渡って、中国から伝わってきました。
目次
線香やお香の歴史
16世紀の終わり(安土桃山時代)に堺の薬種商人が韓国や渡り、線香を発見しました。
日本独自の押し出し機を使った製法を導入し、堺で製造したのが日本最古の線香とされています。
堺は当時、我が国有数の貿易港であり、原料の香木が東南アジア方面から集まりやすかったこともあります。
また、堺は「泉南仏国」と言われるほど京都、奈良に次いで寺院が多かったことが線香づくりの発展を支えたと思われます。
線香の生命である香料の調合は、室町時代に発達した香道、茶道の影響を受け大いに発展しました。江戸時代にはすでに線香の産地として有名になっていました。
戦前には全国生産量の約60%を占めていました。
堺の線香は、選びぬかれた天然の香料の調合が特色で、香の芸術品といわれています。
香料の調合率などは、それぞれの製造元の秘伝とされ、時代に合わせて工夫を重ねながら受け継がれています。また、香りのブームの中で、室内芳香用や医療用として、天然香の効能が注目されています。
現在では国内最大の産地は兵庫県の淡路島となっています。
淡路島の淡路市で堺の職人が製造方法を教え製造が始まりました。昭和30年代半ばには線香生産量日本一となり、現在では全国生産量のうち、70%を占めています。
他に、日光市(栃木県)では、日光杉の杉線香の生産量が日本一となっています。
京都では、神社や寺院など文化的背景による京都のブランド力が強みとなっています。
生産額だけで比べると、高付加価値製品の産地といえます。
線香やお香の材料と種類
線香の原料=基材(ベース)+香料
基材:ノリの役割を果たす原料で香りはあまりありません。
香料:お線香の香りは香料によって変わります。
基材(ベース)3種の特徴
- 椨(たぶ)の粉末
- 炭の粉末
- 杉の葉の粉末
椨(たぶ)は「イヌグス」という別名を持つ常緑高木です。
この樹皮を粉にしたものが基材に使われます。
<特徴>
1・水分を含むと粘り気が出る
2・香りが少ない
この二つの特徴から、お線香の基材として使用されることが多いです。
家庭で使用されているお線香の大部分には、この椨粉が基材として使われます。
イヌグス(椨)の木
炭
備長炭などの炭を粉末にして椨(たぶ)の粉末と混ぜ合わせ、炭線香を作ります。
木酢液が入った線香や消臭効果をうたった商品などが販売されています。
杉の葉
1、山から杉を刈ってきて自然乾燥
2、葉を採取し粉末にする
3、杉粉末に湯を注いでこねる
4、線香の形に成型して乾燥
煙がよく出るので室外、主にお墓参りなどに使われる比較的安価な線香です。
蚊取りにも使えるようです。
乾燥させた杉の葉は、茶色になりますので、緑色の線香は、染料で色づけされています。
香料の種類と特徴
香料として使われる原料は、天然のものがほとんどです。
漢方薬として使われることが多い原料も使用されています。
香料として使われる材料には下記のような種類があります。
- 白檀(Sandalwood)
日本では生育しておらず、インド、インドネシア、台湾など東南アジアの国々から輸入しています。
白檀は精神とスピリットに働きかけると言われます。基本は鎮静させ、調和させること。そのため、頭痛や不眠症などの神経系の興奮状態に効果的です。世俗的な不安や、執着心を落ち着かせ、崇高な意識へとつながる助けをしてくれます。未来を思い描くのではなく、今に意識を向け、自分の本質を向き合わせてくれます。
- 杉(Cedar)
スギには、天然の防衛物質やフェロモン等が情報科学物質として含まれています。
心地よい芳香の他、ヒノキと同様、抗菌作用などがあります。さらに日本酒の樽にスギが用いられるのも酒にスギ独特の香りつけとともに、防腐作用を利用した先人たちの知恵ともいえるでしょう。 - 沈香(じんこう)
代表的な香木の一つで、 東南アジアに生育するジンチョウゲ科の香木です。
沈香の極上品を伽羅(きゃら/から)といいます。
ワシントン条約の希少品目第二種に指定されています。
- 丁子(クローブ・clove)
フトモモ科の常緑高木。芳香があり、葉は楕円形で両端がとがっています。筒状の花が房状に集まってつき、つぼみは淡緑色から淡紅色になり、開花すると花びらは落ちます。つぼみを乾燥したものを生薬や香辛料にしたり、油をとったりします。クローブの花のつぼみを乾燥させた香辛料は、肉料理などに使われることで知られています。
- よもぎ
キク科ヨモギ属の植物で「和製のハーブ」とも呼ばれています。
東洋では代表的な薬草で、民間万能薬として広く知られています。
「ハーブの女王」とも呼ばれるよもぎは、昔から薬草や入浴剤としても親しまれてきました。よもぎの香りには、心を落ち着かせてリラックスできる効果があります。よもぎの香り成分の1つであるシオネールには、脳神経を鎮静化させる働きがあり、質の良い深い睡眠を促すリラックス効果があります。 - ショウブ 薔薇 ラベンダー ジャスミン ユリ 抹茶 スイセン 梅 桜 すみれ
すずらん 椿 など、選び抜かれた天然香料を秘伝の比率でブレンドして堺の線香やお香は作られます。
線香製造工程
<練り>
沈香や白檀、丁子などの天然香料を粉末にして、秘伝の比率で練り上げます。
季節によりお湯の量が線香の硬さに影響するため、職人ならではの感性を頼りとします。
<玉揚げ>
一日寝かせることで「玉」という状態にします。
<盆切り>
原料を線香状に一定の寸法に切るは熟練した職人の技です。
<結束>
最後に1本1本確かめながら、一定量を束にして曲がりを防ぎます
時代に合った香りを生み出しながら、今に受け継がれています。
老舗線香店
- 日本香堂 (東京)
- 鳩居堂 (京都)
- 孔官堂 (大阪市)
- 松栄堂 (京都)
- 奥野晴明堂 (堺)
- 敷島線香 (堺)
- 東芳堂 (堺)
- 薫明堂 (堺)
- 森島如鳩堂 (堺)
- 貴田沈清堂 (堺)
- 梅栄堂 (堺)
- カメヤマ (大阪市)
線香やお香と香りビジネス
線香とお香、お香とアロマの境界線がなくなってきています。
香りビジネスが急拡大していて、高級ホテルから銀行までが導入し効果が絶大となっています。
香りを利用した空間演出は、今やスタンダードとなっています。
例えば、マリオットホテルは、カシス、リンゴ、ムスクなどを調合した特別な香りをロビーでたく。この香りは、国内に八つあるマリオットブランドのホテルで共通。そのため、同ホテルの接客担当従業員が言うように、「お客様がホテルのロビーへ入った瞬間に香りを嗅ぎ、弊社のホテルにまた戻ってきたと感じてくれる」という“プルースト効果”があるのだ。
引用元 週刊ダイヤモンド
プルースト効果とは、嗅覚や味覚から過去の記憶が呼び覚まされる心理現象をさします。
過去の記憶に結びつけられた匂いを嗅ぐことでフラッシュバックを起こすような体験をプルースト現象と呼びます。
香りビジネスの多様性はドラッグストアに行くと、商品のラインナップに驚くほどです。
車用・トイレ用・リビング用・お風呂用・ペット用・消臭用・除菌用・・・
TVコマーシャルでも、洗濯洗剤の香りや部屋の匂い、タバコの悪臭、ペット匂いを消して芳香を出す商品が毎日のように宣伝されています。成熟社会の象徴のようにも感じられます。
各家庭にも玄関を入るとその家庭独自の匂いがあるものです。
意外と自分では気づかないものですが、他人の家庭を訪問すると感じるにおいです。
我が家も玄関にアロマディフューザーを置いていますが、ころころ香りを変更せずに、
プルースト現象が起きるよう、一定の香りに絞り込もうと思います。
まとめ
歴史ある商人の町堺ですが、伝統産業の後継者問題や経営の生き残りが難しい時代となっています。それぞれのお店や会社は、努力を重ね、伝統を守りつつ磐石な経営体制を作っていこうと努力しています。
堺の有名な線香製造会社「梅栄堂」では、コーヒーの香りやイチゴ、蜂蜜、ミントなど斬新な線香を開発しています。
故人がコーヒー好きだったので、コーヒーの香りがするお線香を上げたいという家族の願いが叶えられます。
以前、親戚の仏壇にお供えしましたが、とても喜ばれました。
頑張っている伝統産業を応援していきたいと思います。
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